筆界特定制度とは、土地の所有者として登記されている人等の申請に基づき、申請人等に意見及び資料を提出する機会を与えた上、筆界特定登記官が職権で必要な行為を行い、外部専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、簡易迅速に現地における土地の筆界の位置を特定する(その位置が特定できないときは、その位置の範囲を特定する)制度です。
従来、筆界でもめた場合には、筆界確定訴訟(裁判)での解決しかなかったのですが、平成17年に不動産登記法を改正し、平成18年1月20日に筆界特定制度が開始され、これにより、筆界をめぐる紛争の解決について新たな選択肢が増えることになりました。
しかし、裁判と筆界特定制度にはメリット・デメリットを含め、様々な相違点が存在します。
1.筆界をめぐる紛争解決に向けての時間と費用
筆界特定制度を申請する際には申請手数料がかかりますが、申請手数料は、対象となる土地の価額によって決まり、例えば、対象となる土地(2筆)の合計額が3,000万円の場合は、申請手数料は6,400円になります。
また、申請手数料のほか、手続費用が必要となります。手続費用として、現地における筆界の調査で測量を要する場合には、測量費用を負担する必要があります(土地家屋調査士が代理人となった場合には、基本的に測量を要せず、土地家屋調査士が行った現地の測量成果を基に筆界特定手続が行われるため、測量費用は無料となります)。
一般的な宅地の測量の場合、測量費用は数十万円程度となりますから、申請手数料と合計しても、裁判に比べて費用負担は少なくて済みます。
また、裁判では多くの時間がかかりますが、筆界特定制度では通常6ヶ月程度で終了するため、この点に関する負担も軽減されています。
2.対立構造
筆界特定制度においては、隣人を訴えるという当事者対立構造をとっておらず、原告・被告という立場ではありません。
これは、筆界は公のものであり、筆界特定登記官は職権で必要な行為を行うため、対立構造をとるのは適当ではないためです。
裁判は、原告・被告という対立構造をとっており、この点においても、筆界特定制度での当事者の心理的負担は軽減されているといえます。
3.筆界特定の効果
筆界特定は、公的機関が筆界を判断する行為であり、行政処分としての効果はなく、裁判のように筆界を形式的に確定する効力もありません。
しかし、その内容については、公的機関が示した判断として証明力を有することになり、筆界の位置が問題となる様々な場面において、証拠価値を有するものとして活用が可能です(裁判においても証拠として利用できます)。
また、筆界特定の結果に不服がある場合には、裁判を起こすことも可能ですが、現実には、公的機関が専門家の意見を踏まえて示した筆界に関する判断としての筆界特定と、違う筆界が認められることは極めて少ないのが実情です。
そのことを明確に述べた判決として、東京地方裁判所平成21年6月12日判決は「筆界特定手続は、専門的な知識経験を有する土地家屋調査士などの筆界調査委員が、筆界特定に必要な調査を行い、意見を提出した上、筆界特定登記官がかかる意見とその他の事情を総合的に考慮して筆界を特定する手続きであり、その手続においては、関係者の意見陳述及び資料提出の機会も保証されていること、そして本件においても、上記筆界特定書では、甲乙両土地にある境界票及び囲障等の検討、公図及び耕地整備確定図の検討、公共用地境界図の検討、地積測量図の検討を通じて上記の結論を得ているところ、その判断は必要かつ十分の資料に基づく適正なものであると認めることができる」とし、「筆界特定手続きでの結論を信頼できるものである」と判断しました。
なお、裁判の結果、判決と抵触する(異なる)筆界特定は、抵触する範囲において、その効力を失います(不動産登記法148条)。